福島研の所属
福島研の所属する大学院は
東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系
です.この名前から,理系の大学院であることを認識するのは難しいかもしれません.検索エンジンで「東京大学 物理」を探しても,この総合文化研究科はなかなか出てきません.すでに,このページまで来られたみなさんには説明の必要はないかもしれませんが,私は物理学の研究者で,多くの物理学者をはじめとする理系の研究者が所属しています.相関基礎科学系の教官リストを見て頂くとわかりとおり,例えばCグループはかなり広い分野をカバーしている物性理論グループです.
駒場の雰囲気
駒場の物理のグループは外からみるとどう見えるんですかね.若い学部学生さんには見えていないというのが正直なところかなと思います.私も学部のときには全く知らなかった.ただ,大学院生になったときには,変なグループがあるイメージでした.普通の物理の研究グループというよりはクセの強い尖った集団です.私もそこに来たので,同じように尖っていたいと考えています.もういい年になってきて,少しは駒場の福島と認識されるようになってきたかな.それは自意識過剰過ぎますね.ほとんど知られていないです.
客観的にみて,駒場の統計物理は今でも特徴があると思います.すごく流行りを追いかけるわけではなく,落ち着いてちゃんとやる系の研究者が多い.あまりあピーリングではないけど,ちゃんとしている感じです.別に他の大学の研究者がちゃんとしていないわけではなくて,アピールするポイントが他にない...こういうと駒場の先生に失礼だな...まあ,独特の雰囲気がある駒場のCグループです.
福島研の研究
基本的に統計物理学が好きな集団です.あと,相転移.何かと何かの境界に惹かれる.液体と固体の境界.ガラスと液体の境界.できることとできないことの境目.平均場理論を構成することは基本として,各種摂動論,数値計算などを駆使して,相転移の存在や相の構造の理解を目指します.
数値計算もする.割ときちっとめの計算.ここにいると,だんだん誤差棒がつかない数値データは嫌いになっていきます.主張がわからなくてイライラします.誤差棒をつけると,それをだんだん小さくするように工夫するようになります.結果として,人に見せたくなるようなきれいなデータになります.主張もクリアになります.
データ駆動科学もする.実験データが与えられたときに,そこから引き出せる情報の限界を見極めて,わからないことはわからないという解析が好きです.だから,いわゆる機械学習は...嫌いです,種類によるけど.
研究室のメンバー
現在のメンバーとこれまでのメンバーはこちら
福島の指導方針
基本的に手厚い指導はしません.
研究室全体として,大きな課題を目指して取り組んでいることはありません.統計物理学に少しでも関係していて,私が面白いと思えるテーマなら何でもよいと考えています.「私が面白いと思える」条件はついているので,何でもよいわけではないですね.
大きな指導方針としては,
それぞれの院生は別テーマでかつテーマは斥力的であるべき
と考えています.だから,物理学会で学生が発表したとしても,同じセッションに連続して福島研のメンバーが並ぶことはそうそうないようになっています.もし将来に研究が花開いて,その研究テーマが注目されるときに,福島研のテーマではなく,福島研の〇〇さんのテーマとなることが目標です.そもそも福島研のテーマなど存在しないのです.
一方,院生との議論は頻繁に行なうことを理想としています.個別の議論の他に研究室全体の「定例会」でメンバー全員が研究の進捗情報交換をします.
統計物理学に関係する話題に広く興味を持てる
必要があるかと思います.上に述べたように,みなさんテーマが異なりますから,研究室の他のメンバーも楽しめないようでは苦痛の時間が続きます.自分の研究だけが進めば良いという学生さんはあまり望みません。人生の時間は有限なので自分ができることは限られています。自分ではない誰かが発展させる科学にも興味をもてる人が私の好みです。テーマが違うといっても,福島の興味の範囲内ですから,めちゃくちゃ広い範囲なわけはないです.科学を愉しむ心があれば絶対に大丈夫.それから、やや古いかもしれませんが、
大学院生の間は研究することが生活の中心にあって
ほしいと考えます。研究者を目指す必要はまったくないので、修士課程で大学院を卒業して、いろんな世界に羽ばたくとよいのですが、「大学院のときは研究をやった」と、あとから振り返ったときにそう思えるつもりの学生さんに来てほしいです。
ちなみに、これまでの卒業生の修論や博論のタイトルはこちらにあります.
個別の研究とは別にM1のときには輪講をします.これは研究と直結することもあるかもしれないし,ないかもしれないです.直接関係しなくても,知っておいて損することはない骨太系の本を勉強することにしています.足腰を鍛えておかないと,いざというときにダッシュできないし,薄っぺらい研究しかできないと困りますからね.これまでの輪講のリストはこんな感じ.
年度 | 本 |
2024年 | Simona Cocco, Rémi Monasson, Francesco Zamponi, From Statistical Physics to Data-Driven Modelling: with Applications to Quantitative Biology, Oxford Press, 2022 |
2022年 | Lenka Zdeborová, Florent Krzakala, Statistical physics of inference: Thresholds and algorithms, arXiv:1511.02476 |
2021年 | Tameem Albash and Daniel A. Lidar, Adiabatic quantum computation, Rev. Mod. Phys. 90, 015002 |
2020年 | Shai Shalev-Shwartz and Shai Ben-David, Understanding machine learning: From theory to algorithms(Cambridge University Press) |
2019年 | R.P.Feynman, Statistical Mechanics: A Set Of Lectures (Frontiers in Physics) |
2018年 | Mezard-Montanari, Information, Physics, and Computation (Oxford Graduate Texts) |
2017年 | N. Goldenfeld, Lectures On Phase Transitions And The Renormalization Group |
2013年 | V.Dotsenko, Introduction to the Replica Theory of Disordered Statistical Systems |
2012年 | M.Talagland, Spin Glasses: A Challenge for Mathematicians |
2010年 | Mezard-Montanari, Information, Physics, and Computation (Oxford Graduate Texts) |
2009年 | Wilson-Kogut, The Renormalization Group and the e Expansion、 Physics Reports |
2007年 | Itzykson-Drouffe, Statistical Field Theory: From Brownian Motion to Renormalization and Lattice Gauge Theory |
2006年 | G. Parisi, Statistical Field Theory |
2004年 | チェイキン・ルーベンスキー, 「現代の凝縮系物理学」 |
卒業研究
研究室の活動は大学院がメインですが,卒業研究のことを少しだけここで説明しておきます.統合自然科学科では卒表研究は所属コースとは関係なく配属先を選ぶことができます.ここの卒業研究では何か興味のある課題に取り組んでもらって,研究発表を行います.テーマはこちらから提供することはほとんどなくて,配属になった学生さんと一緒に議論しながら考えます.以下のリストはこれまでの卒業研究題目です.
行列乗算に対するフリップグラフ上の適応的探索アルゴリズム | 荒井大和 | 2023年度 |
有限次元スピングラスの量子アニーリングにおける横磁場の量子1次相転移の回避の証明 | 山口瑞樹 | 2022年度 |
Random Language Modelにおけるルール間の非自明な相関の出現 | 中石海 | 2019年度 |
東証株価指数の時系列データのカルマンフィルタによる解析 | 大矢健太郎 | 2019年度 |
液体の積分方程式理論による相互作用系の解析 | 前田健登 | 2018年度 |
アンサンブル機械学習による物性値予測と特徴量の重要度の評価 | 崎下雄稀 | 2018年度 |
分配関数のゼロ点の数値計算 | 亀山稔彦 | 2017年度 |
三次元立方格子上の棒状剛体分子の相転移 | 松麿勝利 | 2014年度 |
詳細つり合い条件を満たさないマルコフ連鎖モンテカルロ法の 1 次元イジングモデルにおける緩和時間の評価 | 酒井佑士 | 2012年度 |
ハイパーグラフ上の最小頂点被覆問題の相転移 | 高邉賢史 | 2012年度 |
数独の平均場解法 | 杉田洋樹 | 2010年度 |
数独のモンテカルロ法による解析 | 門田雄介 | 2008年度 |
レプリカ法とSherrington-Kirkpatrick模型について | 中島哲也 | 2006年度 |