Hukushima Labo

スピングラス理論を基礎とするランダム系の統計力学の知見を背景にしたランダム磁性体や相転移理論を中心に、ガラスの理論、計算複雑さの理論、データ駆動科学、計算物理手法の開発など,統計物理学を基盤としたUndisciplined Scienceを目指して研究しています.

Undisciplined Scienceというのは聞いたことがない言葉かと思います.学際研究とか融合研究の重要性は最近聞かれます.multidisciplinary, interdisciplinary,  crossdisciplinaryなどと呼ばれます. それとはちょっと違う感じですかね.何かと何かを融合したいのとはちがって,あれもこれも興味の赴くままに研究したけど,それって何の分野ですかと聞かれたら答えられない分野になっている.どこにも属さない分野という意味のUndisciplined Scienceです.本来,研究者はこうあるべきと思うのです.これはB.Hayesの言葉です.理科を好きになった子供のころって何かの専門家になりたかったわけでなくて,星も虫も好きだったでしょ.

とはいえ,あれもこれもできないわけで,統計物理学を研究しているわけですが,それはその思想が面白くて,かつ,研究対象はそれほど制限されない自由さもあるからです.さらに,マクロに異なる性質が出現する相転移の面白さも様々な分野に顔を出し,それを捉える方法の一つが統計物理学というのもポイントです.Hayesはおそらく研究者でなくて,科学ジャーナリストで,彼のブログはもう消えていて,今では読めないのが残念.今でも読める彼の論文?undisciplined scienceに統計物理学の愉しさが記されています.

特に現象を限定せずに,なんでも物理学の視点からアプローチをするタイプの研究室はどんどん減ってきているように思います.ここはそれができるかなと思っています.個人的にはスピングラスに対する思い入れがあり,複雑な秩序への相転移は面白いと思っているし,スピングラスの数理がベイズ統計と似ていることからデータ駆動科学にも興味を持っています.自分では実験はしないですが,実験データからどんなことが引き出せるかを実験家と一緒に議論することはとても楽しいです.昔は,実験なんて真面目に考えていなくて,理論模型の織りなす数理がわかればそれでよいと思っていたのですが,やはり,それは健全ではないと思うようになりました.平均場理論も同じ意味で好きにはなりきれないです.人間の気持ちよく解析できる理論が本当に自然を説明しているのかは真摯に問い続けたいわけです.