春の物理学会2025&レポート

もうすぐ物理学会がはじまります。今回はオンラインです。研究室関連での講演は以下のとおりです。みんな面白い話をします。レポートはまた後ほど。 講演番号講演者講演タイトル領域18aL1-2 大島巧A, 市川佑馬A, B, 福島孝治A, Cテンソルネットワークを用いたポピュレーションアニーリング11 18aL1-4荒井大和A, 市川佑馬A, B, 福島孝治A, C離散分布に対する連続緩和を用いた勾配ベースのマルコフ連鎖モンテカルロ法1119aL1-1中石海A, 西川宜彦B, 福島孝治A, C大規模言語モデルの学習における温度誘起相転移の出現1119aL1-2西山颯大A, 市川佑馬A, B, 今泉允聡A, C, D, 福島孝治A, C2層ニューラルネットワークのSGDダイナミクスにおける特徴学習の効果1119aL1-10市川佑馬A,連続緩和に対するアニーリングを用いた機械学習による組み合わせ最適化1120aL2-6岡嶋航太A, 福島孝治A, Bブラウン回路の計算理論的コストと熱力学的コスト11 あと、板尾くんの物理学会若手奨励賞の記念講演があります! ここからレポー...
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市川くんのmin-max論文がTMLRで公開

min-max問題の統計力学 市川くんのmin-max問題の統計力学に関する論文は以下のように公開されました。Yuma Ichikawa and Koji Hukushima,“Statistical Mechanics of Min-Max Problems,”Transactions on Machine Learning Research, 2025 久々ですが、この研究の周辺について解説します。 ある種のゲーム理論や、この論文でも議論しているGenerative Adversarily Network (GAN)の定式化では次のようなmin-max戦略で表されます。 xやyは戦略を表していて、その戦略を取ったときの利得関数をA(x,y)としています。この書き方でのmin-maxは、あるxについて、戦略yを最大化し、その最大値が最小になる戦略xを求めることを意味します。この最大化と最小化の順番が重要で、この2つの操作を評価するのが一般に難しい問題です。一つなら通常の最適化問題ですが、順序がついている2つの最適化問題を扱う必要がある点に難しさ...
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崎下くんのラウエ振動のベイズ統計論文がJPSJから出版

薄膜ラウエ振動のベイズ統計的解析 崎下くんの論文がJournal of Physica Society of Japanに掲載されました。Bayesian Estimation of Thin-film X-ray Laue Oscillation Using Markov Chain Monte Carlo MethodYuki Sakishita, Fuyuki Nabeshima, Atsutaka Maeda, Koji HukushimaJournal of the Physical Society of Japan, 94, 014001 (2025) 10.7566/JPSJ.94.014001 ちょっと久しぶりですが、この論文とその背景を解説します。 この論文では、2024年3月に卒業した崎下くんが修士課程のときに実験で得ていたFeSe薄膜のX線ラウエ振動をベイズ統計で解析し、膜厚を推定しました。この研究では得られた実験データから統計モデルをモデリングし、その解析から知りたい物理量を推定するという極めて地に足がついた...
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ノーベル賞2024の周辺で…

2024年のノーベル物理学賞はHopfieldとHintonに与えられました。2021年のParisi, 2016年のThouless, Haldane, Kosterlitzとこんな頻度で統計物理学に来ると、その分野の研究者としてはうれしい限りです。私はホップフィールドモデルとかニューラルネットワークとか、機械学習のプロではないのですが、ちょっとは勉強したし、面白いと思う課題があれば研究することもある程度です。modern Hopfield modelとかちゃんとわかってない…そんな立場から今回の受賞に伴うざわざわ話について、もやもやするなぁと思うことがあって、ちょっとだけ。 それは「これは物理なのか」という議論で、Xとかでざわざわしていて、まあたのしく見てるのですが、そもそも「何が物理なのか」論争は趣味の問題なのでどうでもいいし、得てして、そういうこと言ってる分野っていうのは終わりが近くて、断末魔のようにも見えます。一方で、逆側のふれ方として、AIは物理だとか、これからの物理はAIだとか言ってるのも見ても、どうしちゃったんでしょうか?って思います。 AI・機械学習を使...
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日本物理学会レポート2024秋

私は大勢の人とお話するのは正直苦手です。学会で多くの知り合いにお会いするときには精一杯愛嬌を振る舞います。基本的には自分の研究室でネチネチ考え事する方が好きだし、これは怒られるけど人に認められなくても自分できちんとした基準の元で研究はしてるし、人の判断なんかは必要ないとも思っています。研究するには、個人的に私一人にたっぷりの時間をくれて、私の欲するところで人の意見を聞けばありがたいと思っています。多くの研究者はそう思っていると私は思っています。ただ、実験研究で大型施設を動かす必要がある場合にはチームとしての共同活動は必要だし、そのチームの能力が個の能力を凌駕してすばらしい成果をあげることはとても認識しています。だけど、理論は別ですよ。チーム組んでなんかやるなんて気持ち悪いし、なんか集まってクソみたいなミーティングやってるのバカだと正直思っちゃいますよ(それは言い過ぎです)。 それは置いておいても、学会で人的交流は何にも代えがたい貴重なものです。私には役に立たなくて、周りを見ていると、このかけがえのない貴重な体験を奪うものがあるなら100%のエフォートで反対すると。。。あらためて...
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秋の日本物理学会2024

9月16日から日本物理学会があります。今回の登録は以下のとおりです。今回の会場は北海道大学ですが、私の物理学会デビューはM1の秋の北海道大学でした。もうめちゃくちゃ緊張して、胃が引っくり返りそうになっていたことを覚えています。 学会終わったら、またレポートを書いてみたい。。。ざっくり書いてみた。こちら。 講演番号タイトル著者所属領域18pS105-2機械学習と中性子非弾性散乱を用いたKCu4P3O12の研究長谷正司A, 田村亮A, アンドレアスデニA, 福島孝治B, 浅井晋一郎C, 益田隆嗣C, 伊藤晋一D物材機構A, 東大総合B, 東大物性研C, 高エ研D領域316pE311-6±J イジングスピングラスにおけるエンタングルメント・エントロピーの低温極限大島巧A, 福島孝治A, B東大院総合A, 東大先進B領域1116pE311-7スピングラスモデルのカップリング時間について福島孝治, Werner KrauthA東大総合, ENS ParisA領域1116pE311-9Simulated temperingとWang-Landau法を組み合わせた効率的な自由エネルギー...
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荒井くんの行列積の研究がISSAC2024に採択・発表

行き詰まったら、一度戻って考え直します 荒井くんと市川くんの行列積の掛け算最小記録論文がThe International Symposium on Symbolic and Algebraic Computation (ISSAC) に採択されて、荒井くんが口頭発表をしてきました。1988年から毎年開催されている由緒正しい研究会です。Yamato Arai, Yuma Ichikawa, and Koji Hukushima“Adaptive Flip Graph Algorithm for Matrix Multiplication,”ISSAC ’24: Proceedings of the 2024 International Symposium on Symbolic and Algebraic Computation, July 2024, Pages 292 – 298 統計物理学の研究室としては主戦場ではないこともあり、ISSACはよく知らない会議ですが、土台とな...
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長野くん論文がJSTATに掲載!

馬蹄型事前分布によるスパース推定の統計力学的研究 2023年3月に卒業した長野くんの研究が論文として出版されました。次の二つの研究論文が発表されました。 Phase transition in compressed sensing with horseshoe priorYasushi Nagano and Koji Hukushima,Phys. Rev. E 107, 034126 – Published 17 March 2023 Effect of global shrinkage parameter of horseshoe prior in compressed sensingYasushi Nagano and Koji Hukushima,J. Stat. Mech. (2024) 053402 すぐに出版されると思ったのですが、そうはいかず、この解説もなかなか公開できませんでした。我々の問題ではなかったので、ちょっともやもやしますが… さて、長野くんの研究はスパース推定と呼ばれる推定問題に対する馬蹄型事前分布の方法という、ちょっ...
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市川くんの研究がAISTATS2024に採択・発表

Learning Dynamics in Linear VAE: Posterior Collapse Threshold, Superfluous Latent Space Pitfalls, and Speedup with KL Annealing 市川くんの研究が、The 27th International Conference on Artificial Intelligence and Statistics (AISTATS)に採択され、5月2日から4日に開催の会議で発表してきました,。当研究室としては、機械学習などのトップカンファレンスには縁がなかったわけです(物理の分野にはカンファレス文化はないのでね)が、市川くんが積極的に応募して、採択が叶いました。論文はこちらからも見られます。Learning Dynamics in Linear VAE: Posterior Collapse Threshold, Superfluous Latent Space Pitfalls, and Speedup with KL AnnealingYuma Ichi...
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土手さんのVertex Cover論文がPhysical Review Eに

Effect of constraint relaxation on the minimum vertex cover problem in random graphs Aki Dote and Koji Hukushima,“Effect of constraint relaxation on the minimum vertex cover problem in random graphs”,Phys. Rev. E 109, 044304 – Published 5 April 2024https://doi.org/10.1103/PhysRevE.109.044304 これは、この3月に卒業した土手さんの研究成果です。例によって周辺解説をします。 最適化問題は統計力学から見ると絶対零度極限に相当するので、熱力学極限での最適化問題の性質はFu-Anderson以来多くの統計力学的研究があります(こういうところにも出てくるP.W.Andersonはすごい)。Kirkpatrick-Selmanがランダム化された制約充足問題であるrandom SA...
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