二次元スキルミオン固体の融解相転移
西川宜彦くんとKrauthさんとの共同研究の論文がPhysical Review Bに掲載されました:
Solid-liquid transition of skyrmions in a two-dimensional chiral magnet
Yoshihiko Nishikawa, Koji Hukushima, and Werner Krauth
Phys. Rev. B 99, 064435
スキルミオンは相互作用と磁場との競合により生じるトポロジカルな励起である.実験的にも観測されていて,特に二次元薄膜系では温度ー磁場相図の広い領域で安定に存在することが知られている.そのスキルミオンは寿命が長く,粒子のようにみなせる.そのスキルミオンは絶対零度では三角格子の結晶を構成する.温度を十分高くするとスキルミオンは崩壊するが,それまでの中間の温度ではスキルミオンは結晶ではなく個別にフラフラと動き回り,液体のようにみえる.ということは,結晶状態から温度を上げると,固体ー液体の融解転移が起きると思われる.
きほん的な融解転移の問題として,二次元粒子系の固体ー液体の相転移は1970年代から精力的に研究され,Kosterlitz-Thouless-Halperin-Nelson-Young(KTHNY)理論としてまとめられた.多くの理論的予言があるが,結晶相と液体相の間にヘキサティック相と呼ばれる位置秩序はないが配向秩序だけがぎりぎり存在する相がありうることは二次元系の大きな特徴の一つである.90年代になり大規模数値計算ができるようになると,この理論の検証が様々な粒子系で研究されてきた.
るいじ性があるとは言え,スキルミオンを粒子と思って良いかどうかは自明ではない.スキルミオン結晶はどのように融解するのか?この問いに答えることが,この研究の課題である.もちろん,スキルミオンは粒子ではない.たとえば,
- 一つのスキルミオンは複数のスピンから構成される.つまり,スキルミオンには内部自由度があり,そのエントロピー効果がある.
- スピンは格子点上に存在するために,スキルミオンはその格子との相互作用がある(はずである).つまり,周期的なポテンシャルの効果が存在する.
はすぐに思いつく.この状況下で上の問いに答えたい.この研究では二軸方向にDzyaloshinskii–Moriya相互作用をもつ二次元古典ハイゼンベルグ模型をGPGPUによる大規模モンテカルロ計算を用いて,詳しく調べた.我々の結果をまとめると次のとおりである.
- スキルミオンは有限温度では揺らぎの結果として結晶を作ることはできなくて,配向秩序のみが長距離秩序をもつ固体が存在する.
- その固体から液体へは直接相転移が起き,中間にはヘキサティック相は存在しない.
みた目で結晶と固体を区別することは難しい.結晶でなくて固体であることを示すためには長い空間スケールを丁寧に調べる必要がある.粒子系では標準的に調べられている位置と配向の相関関数を評価するために,スキルミオンの位置の同定やスキルミオン数の制御など細かいけど重要な技術が盛り込まれている
おわりにもうひとつだけ...この論文の掲載が決まった直後に,今月のPhysical Review BのKaleidoscopeに選ばれたと連絡が来た.非常にわかりにくいが,下の段の左から二番目である.一番左ではない.scientific meritは関係ないらしいが,この図はとても意味が深い.これはスキルミオンが下地の格子に対してどこに存在するかを表している.スキルミオンと格子の有効相互作用と言ってもよい.この燃え盛る太陽の用に見える図は四隅の格子上ではなく,格子の中心にスキルミオンがいることを意味している.また,磁場や温度を変えると格子上にスキルミオンが居やすいこともある.
んー,この図を選んでくれるセンスは素晴らしい.