秋の日本物理学会2025

9月16日から広島大学にて物理学会が開催されます。研究室からは以下の発表があります。

講演番号タイトル著者所属領域
16pSK305-10連続緩和を用いた勾配型MCMCの多クラス離散サンプリングへの拡張荒井大和A, 市川佑馬B, 福島孝治A, C東大院総合A, 富士通人工知能研B, 東大先進C領域11
16pSK305-11AtomWork Explorerについて福島孝治, 崎下雄稀A, 徐一斌A東大総合, NIMSA領域11
17aSK203-1多ファネル構造を持つ原子クラスターに対するPopulation Annealing法の応用小和口昌愛, 福島孝治東大総合領域11
17aSK305-112次元スピングラス系へのテンソルネットワークを用いたポピュレーションアニーリングの応用大島巧A, 市川佑馬B, 福島孝治A, C東大院総合A, 富士通人工知能研B, 東大先進C領域11
17pSK306-9並列設計されたブラウン回路の時間計算量岡嶋航太A, 福島孝治A, B東大院総文A, 東大先進B領域11

荒井くんの話は、ポッツ変数のMCMCの状態更新を勾配を使って行う方法の最新の結果です。素朴に勾配なんか存在しないので、実数緩和をするわけですが、その仕方はちょっとかっこいい感じです。あと、この手の研究は現在のGPGPUによる実装を前提にしていて、こういうハードウェアを意識したアルゴリズムはしばらくなかった気がしますが、現代のGPGPU全盛期では意義が大きいと感じです。私のような古い感覚ではちょっと見えないところを突き進んでいます。

大島くんの話は、テンソルネットワークとMCMCの融合の最新型で、ポピュレーションアニーリングの初期配位をテンソルネットワークベースの生成モデルで生成することで、低温のスピングラス計算を実行しています。テンソルネットワークの計算には低温で数値的不安定が顕著に現れます。指数関数の掛け算ばかりしてると低温は耐えられないので、どこまで下げられるかというと、それはスピングラス系ではインスタンスに依存するのはよいとして、その判断には有効サンプルサイズを使うというのは筋が良い感じがします。

岡嶋くんは、ブラウン回路の計算時間について講演します。桁の多い足し算をする場合に、我々が日常に使う計算機では桁の先読みをして並列に計算します。エネルギーをかけてもよいと考える立場では、このアルゴリズムが計算時間を短くするので採用されています。同じことが、エネルギーコストが小さくて済むと考えられているブラウン回路でなりたつか?というのが問いですが、これに否定的な回答を示します。

小和口さんは、LJ相互作用する粒子系のポピュレーションアニーリング(PA)を用いた熱力学量の計算結果を示します。38粒子系という少数系ですが、安定状態はまあまあ複雑で、その有限温度の性質はいくつかのクリアなクロスオーバーが見えて面白いです。MDでも他のMCMCでも計算できるのですが、PAを用いる利点は自由エネルギー計算ができることで、PAの各walkerの状態の分類ができれば、状態の自由エネルギーがかんたんに評価できます。分配関数の分配比が計算できるという感じです。これはベイズ統計でのモデル選択がwalkerを見てるとできるのと同じで、計算方法として面白いです。

私はNIMSチームとの共同研究の話をします。えっそんなことやってんの?という感じの話です。実際には崎下くんが計算しているのですけどね。こんなことをやってみたいと思ってることの一つができているので、ぜひ聞いてください。でてきた結果は、なんというかくだらなくてとても面白いです。