東京大学教養学部は今年の5月に創立70周年を迎えました.それを記念した書籍「東京大学駒場スタイル」(東京大学出版会)に拙文を掲載していただきました.
“More is …”――たくさんあることの物理…福島孝治
研究紹介のコーナーですが,あまりちゃんとした研究紹介にはなっていないです.”More is “に続く言葉は有名ですが,もう一つマニアにだけ知られているオマージュ的な言葉もあり,そこにも触れています.今年,東京大学を退官された今田先生の最終講義にも出てきました.それまで知ってはいたのですが,改めて出典論文を読んでみて感銘を受けたので触れてみたわけです.
(2019.9.14追記)上だけではあまりにも情報がない気がしたので少し追記.
More is different. これはP.W.Andersonの有名な言葉であちこちに解説などもあります.行く過ぎた要素還元主義に警笛を鳴らすとともに,物性物理の面白さの一つとして,構成要素がアボガドロ数ほどもたくさん集まったときに初めて創発される秩序の凄さを端的に言っています.水分子をつぶさに眺めてエネルギースペクトルを完全にわかったとしても,0度で水が氷になることをそれだけでは説明できない.相転移の面白いところはココにあります.
その”More is”に “the same”と続けたのはL.P.Kadanoffです.ポイントは二つあります.More, moreと言っても,無限大まで持ってこないと熱力学関数に特異性は現れないわけで,そこは有限系の呪縛にとらわれていて,1個,2個...と定性的には「同じ」というわけです.数学的にはmoreは無限大まで持ってこないと質的には変わらないという指摘です.もう一つはこの点とは別です.無限大まで構成要素をを集めると相転移が出てくるのですが,我々の世界にはたくさんの相転移が存在します.我々の世界に秩序があるのは,相転移によって出現することが多いのです.そのたくさんある相転移をよくよく眺めてみると,あの相転移もこの相転移も非常に似ていてるということに気づくきます.いや,似ているレベルを超えて,ある基準でみるとまったく「同じ」と言えるのです.相転移の分類学が一気に進んだ90年代の普遍性クラスという考え方のことです.
後出しとは言え,私は”the same”という感覚が好きだし,そのレベルの理解ができる人がたくさんいるとよいと考えています.